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サバにマグロを産ませる秘策クロマグロ禁輸の動きが強まっている。国際取引を禁止しようとしたワシントン条約の締約国会議は何とかしのいだが、いつ再燃するかわからない。トロが食べられなくなるのも時間の問題かと覚悟していたら、意外な救世主がいた。なんと、サバにマグロを産ませて増やそうというのだ。
マグロは1回に数十万個の卵を産むが、自然界では成魚になれるのは限りなく0に近い。しかし、もし水槽で1年ほどで育つサバにマグロを産ませることができれば、マグロの稚魚を大量にしかも安く得られる。養殖に役立つだけでなく、海に放流すれば取りすぎた天然マグロを絶滅から救うことができる。
でも本当にそんなことができるのだろうか? たとえ生まれても、サバマグロみたいな変な魚にならないのか?
「大丈夫。サバの腹を借りてマグロの卵を育てようというもので、生まれた赤ちゃんは正真正銘のクロマグロです」
12年近く、この研究に打ち込んできた東京海洋大学准教授(水産学)の吉崎悟朗さん(44)はニッコリ笑って説明してくれた。
親マグロの体内には、メスなら卵のもとになる卵原細胞、オスなら精子のもとになる精原細胞がある。これをサバの体内に移植して根付かせることができれば、サバの卵巣にマグロの卵が、サバの精巣にマグロの精子ができる。こんなサバのメスとオスが出会えば、カップルとなってせっせとマグロの子作りをしてくれることになる。
しかし、移植には拒絶反応がつきもの。人間の臓器移植と同様に、マグロの細胞をサバが簡単に受け入れるわけがない。
「ところが生まれたての赤ん坊のサバなら、この拒絶反応がほとんど起きないことがわかったのです」
赤ん坊のうちにマグロの卵原細胞や精原細胞を注入しておけば、そのサバが大人になるとマグロの卵や精子を作ってくれる。不妊処理をしてサバ自身の卵や精子を作らないようにしてから注入すれば、そのサバはひたすらマグロの卵と精子だけを作り続けることになる。
とはいえ、体長5ミリにも満たないサバの赤ちゃんの腹のどこに卵巣や精巣があるか、わかるのだろうか。そもそも、サバの赤ちゃんの性別はどうやって判別するのか。間違ってオスの赤ちゃんに卵原細胞を入れたりしたら、大変なことになりはしないか。
吉崎さんは再びニッコリ笑った。実はマグロの卵原細胞も精原細胞も、自分で卵巣や精巣を探して移動する能力を持っている。小さな注射針で腹に入れてあげれば、あとはアメーバのようにサバの体内を動いていく。しかも、卵原細胞が精巣にたどり着けば精原細胞に、精原細胞が卵巣にたどり着けば卵原細胞に、きちんとあとから変化するのだという。吉崎さんは言う。
「魚類の生殖細胞にはもともと、こうした高い柔軟性があるようなのです」
まさに生命の神秘としか言いようがない。吉崎さんたちのこの発見は2006年に米国の学会誌に掲載され、大きな反響を呼んだ。
この原理を使って7年前、淡水魚のヤマメにニジマスの卵や精子を作らせることに成功。2005年からは、今度はサバにマグロを産ませる研究に着手した。
当初、サバへの移植がなかなか成功しなかった。マグロは南の魚だが、日本のサバは北の魚だ。サバが育つ水温の低さが、マグロの細胞に影響している可能性があった。そこで南方にすむ別の種類のサバを使ってみたところ、昨年9月、サバの体内にマグロの精原細胞がきちんと根付くところまでこぎつけた。今春から、いよいよサバにマグロを産ませる段階に入る。
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